読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

Takumi’s blog

文章にして輝く思い出

日常

ガンガンガン!
「8時だよー!8時ー!!」
 
毎朝恒例、母によるありがたき騒音によって俺は目を覚ます。
タブレット端末で時間を確認すると、8時を5分過ぎている。いつもそう。何故か8時をちょっと過ぎてから「8時だよ!」と言って起こされる。
頭はぼーっとしていて回らないが、あえて回す必要も無い。何も考えない。感じない。
俺は当たり前のように、ドアにかけられた真っ白なワイシャツに腕を通し、ひとつ飛ばしでボタンを閉める。
ズボンを履いてベルトを閉め、財布とカメラと文庫本の入ったリュックを背負ったら登校の準備は万端だ。
ズボンのチャックはエレベーターを待つ間にでも閉めればいい。
 
完璧に準備が整った俺はリビングに行き、和室でちんぽをはみだした状態で転がっている大学生の兄を横目に、母がテーブルに用意したパンかおにぎりか何かの軽食をつまむ。
洗面所で鏡を見ると寝癖がすごい。
直す時間はあるけど、面倒だから放置する。
 
 
少し早い気もするけれど、俺は「行ってきます」も言わず、物理的に重たいドアを体で押して外に出る。
ドアの前で壁に寄りかかり待機しているパナソニックロードバイクを転がしエレベーターへ。
 
時間にゆとりがあっても、俺はせっかちだからいつも無駄に急いでしまう。
254を渡り16号へ、畑に挟まれた道路を走り抜ける。
16号を超えるとかなり急な坂があるが、ロードバイクならへっちゃらだ。なんせこの為に買ったのだから。
 
坂を上って信号を渡り路地を二回曲がると、あとは学校まで一直線だ。
 
 
駐輪場に自転車を停め、教室へ。
少し早いから、誰とも遭遇せずに教室までたどり着くことができる。
リュックを机に置き文庫本を取り出すと、俺の優雅な読書タイムが始まる。
 
 
5分が経ち10分が経ち、続々と教室に人が集まってくるが、俺は誰とも挨拶を交わさず、本を読み続ける。
朝から人と会話をするのは俺にとってはかなり億劫なことだ。
ただ、なぎちゃんは別だ。「つっちーおはよー!」と元気に言われ、「なぎちゃんおはよう^^」と返事をすることで、一日活動するエネルギーを得ることができるのだ。
 
やがて担任の福ちゃんが教室に入ってきて、HRが始まる。
一番前の席では数学が好きなメガネのあいつが周囲を気にしている。時々目が合うからやめてほしい。
 
HRが終わると、各々それぞれの教室へ移動する。
食品製造実習ならチャラい女友達と、調理ならチャラい友達と、飼育なら科学部のオタクな友達と、果樹なら変な奴らと、クラフトならロン毛と、それぞれ顔を合わせ、話をしたり、しなかったりする。
授業によって話し相手が変わり、それに伴って話す内容もまったく変わる。それが楽しい。
そんなことの繰り返しで一日は終わる。実にあっという間だ。
これと言って充実感は無いが、気分を害することもない。つまらない授業は妄想すればいいし、楽しいと思える授業は聞けばいい。そんなスクールライフはそれなりに有意義に感じていた。
 
帰りのHR、または掃除が終わると、部活がある日は写真部の部室である情報処理室に集まり、後輩に知識をひけらかしたり、友達と喋ったりする。
部活が無かったら、時々一人カラオケに行ったりもするけどたいていは帰る。
 
朝とは少し違った道を通って、朝よりもゆっくりと帰る。
帰ったら仮眠をとって、夕食の前に母に起こされ犬の散歩に行く。
散歩から帰ってきたら手洗いうがいをして、家族の集まる食卓でご飯を食べて、一番にお風呂に入って、部屋に戻ったらパソコンを起動し、眠くなるまでネットゲームをする。
 
そしてまた母に起こされ学校に行く。それの繰り返し。
 
これは、学生に与えられた権利と、親に与えられた自由を持ってして得られる、俺の素晴らしい日常。
 
本当に、素晴らしい日常だった。
 
今はもう母に起こしてもらうことも、学校に通うことも、友達と話すことも、犬の散歩に行くことも、何もかもできない。 
 
高校を卒業して、石川で就職して、環境が変わり、日常はまるっきり別のものになった。
俺は失くした幸福な日々にさよならをして、新たな日常を歩き始めたんだ。
 
歩き続ければいつの日か、また違った幸福な日々が待っていると信じて。
 
 
おわり。