Takumi’s blog

文章にして輝く思い出

家のこと

実家を出たら親と仲良くなるというケースはよくあるらしい。かくいう俺もその一例になりつつある。

 

実家に住んでいた頃は、両親との喧嘩が絶えなかった。

両親は俺の事をどうしようもないゴミクズ、一家の恥晒しだという様な認識をしていたのだろう。

高校には床に頭を擦りつけてなんとか行かせてもらったが、よく「卒業したら家にいることは絶対に許さないぞ」と遠回しのニュアンスで言われた。一言で言えば、「損切」というやつだ。

だから俺は卒業後即家を出て、住み込みの寮がある石川県の旅館に就職した。

家を出る三日前、母は俺に「やっぱりまだ家を出て働くのはちょっと早いんじゃないの?もし行きたかったら専門学校くらいなら行かせてあげるよ」と、涙ながらに提案をしてきた。

その時の俺の心境なんざ今更詳しく覚えてはいないが、俺はもうこれまでの人生を捨てて新しい人生をスタートするくらいの心意気でいたし、まったくもって親の言葉に魅力を感じたりすることは無かったように思う。

 

家を出てからは二か月に一度くらいのペースで、実家からお菓子等の入ったダンボールが送られてきた。

それは、はっきり言って迷惑でしかなかった。

例えるなら、邪魔になった犬を公園に捨てに行ったは良いが、罪悪感と「嫌われるのは嫌だ」という思いでエサを与えに行くような、そういう類の自己中心的なわがままに付き合わされているような茶番。俺にはそう思えた。

部長に「実家から荷物が届いてるよ」と嬉しそうな笑顔で言われる度、ひどく憂鬱な気分になった。

 

家を出て一年後、急に両親と弟が旅館に泊まりに来た。

どうしたら良いか分からなくて、一応旅館のお客様だからひとまず表面は取り繕い仲の良い家族を装う事にした。

けれど、仕事としてキッチリとおもてなしをするのは絶対に嫌だったから、その日は休みを取り、サービス出勤という扱いにしてもらった。こうすることで「家族が来たせいで折角の休みが一日つぶれた」という体裁を保つこともできる。

できればそのまま休んでしまいたかったのだが、「俺は今家族に対してどういう感情を抱いているのか」という事で少し自分の中にもやもやしたものがあり、今回はそれを解消する良い機会かもしれないと思って、正面から向き合うことに決めた。

 

「表面を取り繕って仲のいい家族を演じる」というミッションはクリアしたが、結局俺は親の顔をこれ以上見ているとストレスで死んでしまうかもしれない。と身の危険を感じ、朝食を出し終えたらすぐ寮に帰った。

そうしたら親は寮に来て謝罪文を置いて行った。本当に気持ちが悪いなと思った。

そもそも、俺は損切を悪い事だと思ってはいないし、家を追い出されたことを不幸だとも思っちゃいない。

だから、謝罪されても心の底から嫌な気分になるだけで、親が望むように「今までの事は水に流してまた仲良し家族に戻ろう」などという気は微塵も起きなかった。

俺は親に「必要以上に仲良くしようとしないでほしい」とだけメールをした。

それが俺の答えだった。

そのメールを送った時、俺は今後一切の支援を親に求めないことを自分に誓った。

ベンツと事故を起こして借金を抱えようが、結婚して子供ができようが、一切親には頼らないぞ。と、決意をした。

そして俺はその時に気づいた。

自分が「家族と他人になりたい」のだという事に。

 

それから何度か日常報告のLINEが来たり、母親の愚痴用ツイッターにFF外からちょっかいを出されたりということはあったが、その全てが俺に何らかの感想を抱かせることは無かった。

 

もう親の顔なんて死ぬまで見ないのかもしれないし、それでも構わない。というような気持ちでいたのだけれど、埼玉に居て行く当てのない俺は何の気も無しに実家に帰ってしまった。

何も親を恨んでる訳じゃないし、実家に帰る訳には行かないなんて意地を張っているつもりもなかった。のだが、やはり少し自分の中での葛藤はあった。

ちょっとシャワーと布団を借りておいとまさせて頂く予定が、あまりにも歓迎されるもので、結局一緒に食卓を囲み、温泉にまで行ってしまった。

弟に聞いたのだが、母はしょっちゅう「今度たくみが帰ってきたら私の美味しい手料理を食べさせてやるんだ」と言っていたらしい。

父は翌日の朝「帰ってきてるなら電話くらいしろよ!仕事切り上げて早く帰ったのに!」と母に怒ったらしい。

 

人は失くして初めてその大切さに気づくと言うが、親にとっての俺がそうだったのだろう。

逆に俺は失くしても「自分にとっての必要のなさ」を実感しただけだった。

しかし、今回あまりにも喜ばれたせいで少しだけ気が緩んでしまったのもまた事実で、また自分の中で親に対する認識を今一度考えてみようかなと思った。

 

かつての俺は「いつもいつも愚痴を言うのをやめてほしい」「もっとポジティブに生きて欲しい」「こっちにまでストレスを感染させないでほしい」そんな思いで母によく意見をして、怒りを買って喧嘩に発展していた。

しかし今となってはもう滅多に関わる事も無いので、何か気になることがあってもさらっと受け流すだけで済む。だから喧嘩も起きないだろう。

それは俺の中での「しょうもない悩み」の損切だが、それを「仲良くなった」と言ってしまえば平和だ。

 

まあとにかく、好きとか嫌いとかもうそんな感情を抱くことはできないけれど、「家族と思いたくない」なんて考えはやめようかな、と思った。