Takumi’s blog

文章にして輝く思い出

私小説?

通称、“川総”。女子が七割の学校で、授業は選択制と、普通の高校とは少し風が異なる。調理や農業、飼育、芸術等様々な分野があり、選び方次第では、数学や英語等の普通科目の勉強は殆どしなくて済む。それから立地も良く、川越の繁華街から徒歩10分ほどの距離にあり、学校帰りには友達と遊ぶ場所が無数にある。そんな素晴らしい学校を選ばない理由が、怠惰な・・・いや、刹那主義者を自称する俺にあるはずが無かった。
「高校では絶対に彼女ができる」その確信が、当時の俺にはあった。
 
・・・・
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「うん。で、なんでツッチーは未だに彼女できてないの?」
「知らねえよ。むしろ俺が聞きたい」
狭山さんは、うーん・・・なんでだろう。と真剣に考え込んでいる。
俺も、なんでだろうなぁと、一緒になって唸ってみるが、やはり模範解答しか思い浮かばない。
「やっぱり、ステータスが低いからじゃねえの?俺、顔とか性格とかぐちゃぐちゃだし」
「いやいやいやそれは無いよ。卑下しすぎ!言ってて悲しくならない?」
「うーん・・・、めちゃめちゃ悲しい!」
とは言ったけれど、実は狭山さんが間髪入れずに否定してくれた事が俺は嬉しかった。
文化祭の準備に勤しむ狭山さんは俗に言う『LJK』であり、同学年の俺も等しくLJK・・・では無いが、等しくラスト・高校三年生である。
「高校生の内に彼女はもうできないんだろうな。中三の自分に顔向けができねえよ」
教室の床に座る惨めな俺がそうぼやくと、狭山さんは床に目を落としたまま、「ほんとそれなー」と呟いた。
「高校生の内に童貞も卒業できないんだろうなあ」
教室の床に座る、惨めな童貞の俺がそうぼやくと、狭山さんは顔を上げ、「わかる。卒業したかったよねー」と、冗談のように、そして切実そうに答えた。
俺はこうして女子と会話をしている時間がとても楽しい。
こんな風に気兼ねなく会話できる女友達を作ることができるまでに成長した事は我ながら誇らしい事だし、感慨深くもある。そして狭山さんが処女だという事実については、それ以上に感慨深かったりする。が、せっかくの楽しい会話を終わらせない為にも、それについて追求するのはやめておくことにした。
「ところで、狭山さんは進路決まった?」
話題を自然に逸らす。
「うん。短大に決まったよ。というか、もう受かってるし」
「へぇ。学科は?」
「ざっくり言うと観光系かな?ちょっと私も詳しくは説明できないんだけど・・・」
ごめん、意味不明だよね。と、狭山さんは自虐風に言葉を付け足す。
「ツッチーは決まった?」
「三月に面接。石川の旅館行ってくるわ」
「卒業旅行?いいなー」
狭山さんは悪戯に笑う。
「まあ特に焦ったりはしてないよ。本当に旅行気分で行ってくる」
それは本心だった。俺は自分のおおまかな進路は決めていたし、旅館業界は人手不足だという事も知っていたので何一つ不安は無く、むしろ精神は不思議なほどに、すこぶる良い状態にあった。
「お土産待ってるね」
「んー」
お土産を渡すどころか、卒業後二度と会う事は無い可能性も十分にある。
けれど、その時の俺には、なんとなく、本当に根拠も何も無かったけれど、「狭山さんとはまた会うだろうな」という確信があった。
「わー、もうこんな時間だ。そろそろ切り上げる?」
時計に目をやると、もう最終下校時刻の5分前になっていた。
「うん、そうだね」
俺達は、ほとんど進捗の無い作業道具を適当にまとめて仕舞い込む。
俺は元々、文化祭準備なんてものはクラスメイトとおしゃべりする為の口実としか思っていない。だから進捗なんてどうでもよかった。そしてそれはおそらく、狭山さんも同じことだろう。
狭山さんは教室から外の廊下に出て、「うわ、もう真っ暗だよ」と俺に向かって言った。
隣に並んで空を見る。紫と黒の中間のような色をした空に、糸みたいに細い月が浮かんでいた。
特に言葉が浮かばなくて、「月がキレイだね」と、なんとなく口にしてみる。
「何?告白?」
「いや違う違う。けど、よく知ってるね」
「まあね。私、ロマンチストだからさ」
暗闇の中で、狭山さんのはにかんだ顔の半分だけが、教室の明かりに照らされている。
なんだか青春っぽいな、と思ったら、「なんか今、青春って感じだね」と先に言われてしまった。
「ちなみに、「星もキレイですよ」っていう返しにはどういう意味があるか知ってる?」
青春。その言葉を口に出すのは何故か躊躇いがあって、俺は話を逸らした。
「えー、知らない。何?」
「私以外にも素敵な人はたくさんいますよーって、意味らしいよ」
「ほー、なるほどね~。一つ勉強になったよ、ありがとう」
「いや、そんな。ツイッターかどこかで見ただけだよ」
知識をひけらかしたようで恥ずかしかったので、俺は「寒い寒い」と言いながら教室に入った。
楽しいな。こんな日々が永遠に続けばいいのにな。なんて事を考えている自分に気づき、同時に自分が今現在充実した日々を過ごせている事実に気づいたりした。
「じゃあ、また明日」
「うん、気を付けてね」
狭山さんに手を振って、俺は駐輪場へと向かう。
俺はパナソニックロードバイクに跨り、学校を後にした。
街頭が照らす夜道を走りながら、感慨に耽る。
思い返せば、何も無かったような、何かあったような、良く分からない三年間だった。
変な自意識を持った俺には、ただ学校に通って友達と会話をするだけの事を青春だと呼ぶ事は間違いだと思っていて、目に見えない青春を手に入れようと、これまで必死にもがいてきた。
深夜家を抜け出して一人で埼京線に乗り新宿へ行き歌舞伎町を徘徊したこともあった。
この自転車を漕いで日高市巾着田を見に行き、そのまま飯能を目指し、道に迷った挙句凍え死にそうになり、高校の部室棟の女子バレー部の部室に忍び込んでウインドブレーカーに包まって朝を迎えたこともあった。(この話はフィクションです。という事にしといてください)
それ以外にも、屋上で友達と二人で飯を食ったり、夏休みに旅館で住み込みのアルバイトをしたり、青春18きっぷで5日間の旅に出たりと、青春っぽい色々な事をした。
それで本当に青春を得られたかは分からないが、今の俺には「そういうくだらない日々が、時間と共に自分の中で美化されていってやがて青春になるんだ」という松山君の言葉を信じる事以外にできる事は無い。
恋も友情も無かったようで本当はあったのかもしれない。いや本当に無かったのかもしれない。
それは今の俺にはまだ分からない。いつか「ああ、あの時の俺は青春してたなぁ」と思える日が来たら良いな。と、そう願うばかりだ。
後悔しないように、明日もめいっぱい学校を楽しもう。ささやかで幸せな日々を全力で満喫しよう。
そんな事を考えながら、俺は南古谷の田んぼ道をひた走る。
 
 
 
 
終わり